コラム Column
マニュアル
2026-01-20
マニュアル制作における「制作ディレクター常駐」という外部委託の形 — プリンター/複合機メーカーでマニュアル業務に従事されている方へ —
外部委託(外注)を検討していると、「持ち帰りで原稿を作ってもらう」形を想像しがちです。一方、プリンター/複合機の取扱説明書制作では、原稿の前後に発生する調整や確認が重く、そこが詰まって進まないことが少なくありません。 本稿では、そうした現場で選択肢になり得る「制作ディレクター常駐」について、何ができて、どういうケースに向き、どんな点に注意すべきかを整理します。
この記事の結論
- 対象:外部委託を検討中、または一部外注しているが制作が進みにくい取扱説明書部門
- 結論:「常駐」は人手不足の穴埋めというより、制作を前に進める役割(推進・調整)を外部に置く考え方
- 効果が出やすい場面:仕様・レビュー・社内調整が詰まり、原稿作成以前で止まっているケース
- 注意点:万能ではない。向いている条件を見極めたうえで、委託範囲と運用を設計するのが前提
なぜマニュアル制作は「進まなくなる」のか
制作が止まる原因は、原稿を書く能力不足よりも、次のような“前工程・周辺工程”に偏りがちです。
- 仕様情報が揃わない/更新が追えない(差分が小さくても積み上がる)
- 判断待ちが長い(誰が決めるか曖昧、優先順位がつかない)
- レビューが回らない(回覧先が多い、指摘が散らばる、差し戻しが連鎖する)
- 開発日程と制作日程が噛み合わない(仕様確定・実装完了・出荷日などの波及)
- 実機確認が工程に乗らない(手配・日程・確認観点が整っていない)
この状態では、制作会社がどれだけ急いで提出しても、結局は「待ち」が増え、納期が不安定になります。
制作ディレクター常駐とは何か
「常駐」という言葉から、派遣のように“人を増やす”話だと受け取られることがあります。取扱説明書制作における常駐は、実務上はもう少し目的がはっきりしています。
制作ディレクター常駐とは、制作を前に進める役割(調整・交通整理)を社内側に置くことです。
つまり、原稿を書く人を増やすというより、制作が止まる原因になりやすい
- 仕様の取りまとめ
- 関係部門との調整
- レビュー設計と指摘の整理
- スケジュールの整合
を、外部の制作側が担える状態を作る方法です。
常駐はフルタイム固定だけではなく、状況に応じて「期間限定」「週数回」「繁忙期のみ」など、関わり方を調整して成立させるケースもあります。
常駐する制作ディレクターが担う役割
プリンター/複合機の取説制作で、常駐の効果が表れやすいのは「制作周辺業務」が重いからです。具体的には、次のような役割が現場で必要になります。
1) 仕様情報の収集・整理(更新追従を含む)
- 仕様書、画面・操作仕様、UI用語、エラーメッセージ、スペック、同梱品・消耗品・オプション情報などの収集
- 更新タイミングの把握と、制作側への展開
- 「どの情報が、どの説明に影響するか」を整理して伝える
2) 関係部門との調整代行(判断の交通整理)
- 設計・開発・品質・サポートなど、回覧先・確認先の整理
- 不明点の照会(質問の要点整理、回答期限の設定)
- 方針変更の有無確認(構成見直し、冊子追加、国別要否など)
3) レビュー運用の設計(回覧が崩れない仕組み)
- レビュー範囲と確認観点の提示
- 指摘の集約と整理(重複、矛盾、方針が必要なものの切り分け)
- 差し戻し連鎖を減らすための“先回り”対応
4) 開発日程と制作日程の整合(手戻り抑制)
- 仕様確定・実装完了・出荷・認可などのイベントを踏まえた工程調整
- どこまで確定してから書くか、どこから差分対応にするかの判断支援
現場の実感としては、これらが回り始めると「原稿が書ける/書けない」以前の停滞が減り、制作全体の安定性が上がります。
実機を確認しながら進められる体制の意味
取扱説明書は、仕様書の情報だけで成立する部分もありますが、実務では「実機を触って初めて分かること」が残ります。
- 操作の流れの自然さ/つまずきやすさ
- 可動部の癖、力加減、戻り方
- どこで注意喚起が必要か(ユーザーがやりがちな操作)
常駐体制があると、実機の手配・取材日程・確認観点の整理が工程として組みやすくなります。結果として、説明の精度と納期の見通しを両立しやすくなります。
常駐が向いているケース/向かないケース
常駐は有効な場合がありますが、どの案件にも必要というものではありません。目安として整理します。
向いているケース
- 仕様情報の量が多く、更新も多い(差分が積み上がる)
- 関係部門が多く、調整・判断待ちが発生しやすい
- レビューの回覧が長く、指摘が散らばりがち
- 開発日程の変動が制作に直撃しやすい
- セキュリティ要件が強く、情報を外に出しにくい
- 繁忙期だけ制作推進の役割が足りない(兼任で回らない)
向かない(優先度が下がる)ケース
- 仕様が比較的固定で、情報が整理されている
- 窓口・判断者・レビュー運用が既に安定している
- 必要な支援がスポット(用語統一、構成レビュー等)で足りる
- 工程全体の課題が「調整」ではなく、純粋な制作量不足に偏っている
失敗しないためのチェックリスト
常駐を検討するなら、次の点を先に決めておくとブレにくくなります。
- 常駐に期待する役割は何か(推進/調整/レビュー運用/情報整理など)
- 委託範囲はどこまでか(機密・コスト情報など“やらない範囲”も含めて)
- 社内の意思決定ラインは誰か(判断が必要な場面で止まらない設計になっているか)
- レビューの回し方はどうするか(回覧先・期限・指摘の集約方法)
- 実機確認を工程に入れるなら、手配と観点を誰が握るか
- 成果の見方をどう置くか(遅延減、手戻り減、指摘整理、社内工数の減少など)
まとめ
制作ディレクター常駐は、「人を増やす」ための施策というより、取扱説明書制作を止めやすい要因(仕様整理・社内調整・レビュー運用)を前に進めるための外部委託の形です。
プリンター/複合機の現場では、原稿作成以前の工程で停滞が起きやすいため、条件が合えば現実的な選択肢になります。
一方で、常駐は万能ではありません。重要なのは「自社の詰まり方」と「委託範囲・運用設計」を揃えることです。
まずは、どの工程で止まっているか(仕様、調整、レビュー、日程、実機確認)を棚卸しし、常駐が必要なタイプの課題かどうかを見立てるところから始めると、検討が進めやすくなります。