コラム Column
マニュアル
2025-12-19
【2025年】取扱説明書・マニュアル制作業界の変化 ― AI活用は「作業支援」から「プロセス改革」へ ―
マニュアル制作の現場では「AIをどう使うか」という問いの質が変わってきています。
2025年、取扱説明書・マニュアル制作業界では、制作の進め方そのものを見直す動きが目立つようになりました。
その背景の一つにあるのが、AI活用の広がりです。文章生成の補助にとどまらず、校正・翻訳・品質確認といった工程にAIが入り始めたことで、制作プロセス全体をどう設計するかが改めて問われています。
2025年の取扱説明書・マニュアル制作業界で起きている変化
2025年の業界動向を振り返ると、マニュアル制作の現場では「AIをどう使うか」という問いの質が変わってきたことが分かります。
これまでは、文章の下書き作成や言い回しの調整など、作業単位でAIを使うケースが中心でした。しかし現在は、校正・翻訳・用語統制・品質確認といった複数の工程にAIが関わるようになっています。
特に、原稿の差分確認や表記ゆれの検出、校閲支援など、これまで人が時間をかけて行ってきた確認作業が、実務の中で使われ始めた点は象徴的です。
この変化は、AIが高性能になったからというよりも、制作工程全体を前提にAIを組み込もうとする考え方が広がってきた結果だと言えるでしょう。
なぜAI活用は「作業支援」から「プロセス改革」へ進んだのか
AI活用が「プロセス改革」と言われる背景には、工程間のつながりがあります。
校正、翻訳、品質確認をそれぞれ独立した作業として扱っていると、AIを導入しても効果が限定的になりがちです。場合によっては、後工程での修正が増えてしまうこともあります。
2025年に見えてきたのは、
どの工程でAIを使い、どこを人が判断するのかを前提に、制作の流れそのものを設計し直す
という考え方です。プロンプト(指示文)を工夫する以前に、工程設計が問われる段階に入ったと言えるでしょう。
校正:差分確認・表記ゆれ検出が実務に入り始めた
校正工程は、AI活用の効果が比較的分かりやすい分野です。
表記ゆれの検出や改訂時の差分確認など、目視では負担の大きい作業をAIが補助することで、人は重要な判断に集中しやすくなります。
例えば、仕様変更や改訂が頻繁に発生する製品の取扱説明書では、前回版との差分を正確に把握することが欠かせません。AIによる差分抽出を使うことで、確認作業の質とスピードを両立しやすくなります。
ただし、前提となる表記ルールやスタイルガイドが整っていなければ、AIのチェック結果も安定しません。校正におけるAI活用は、基準づくりとセットで考える必要があります。
翻訳:効率化が進むほど工程設計が重要になる
翻訳工程でも、AI活用はすでに一般的な選択肢になりつつあります。
定型的な手順説明やFAQでは、AIによる一次翻訳を活用することで、制作スピードを大きく高めることが可能です。
しかし、取扱説明書や業務マニュアルの翻訳は、単なる「言語の置き換え」ではありません。
注意文や警告文、UI表記との整合、法規制や表現ルールへの配慮など、誤訳がそのまま品質事故につながる要素を多く含んでいます。
そのため近年では、翻訳を単体の作業として切り出すのではなく、校正・用語統制・品質確認と連動する工程として設計する考え方が重視され始めています。
例えば、多言語展開を前提とした製品マニュアルでは、
- 翻訳前に用語辞書や表記ルールを整備する
- AIによる一次翻訳と、人による重点確認箇所を分ける
- 改訂時には差分を起点に翻訳・確認を行う
といった工程設計が不可欠です。
AI翻訳を導入することで作業自体は高速化できますが、その分、どこでAIを使い、どこを人が判断するのかを決めておかなければ、後工程での修正や確認負荷が増えることもあります。
翻訳の効率化が進むほど、翻訳を含む制作フロー全体をどう設計するかが、成果を左右するポイントになっています。
品質確認:「最後に読む」から「工程で守る」へ
品質確認の考え方も変わりつつあります。
従来は、最終工程で人が丁寧に読むことで品質を担保する方法が一般的でした。しかし、制作スピードや多言語対応が求められる中では、それだけでは限界があります。
校正や翻訳の段階で基準を揃え、AIと人の役割を整理することで、品質を「最後の確認」に依存しない形に近づけることができます。
例えば、警告文や操作説明が多い取扱説明書では、品質確認を単なるチェック作業ではなく、工程全体で品質を守る仕組みとして設計することが重要になります。
校正・翻訳・品質確認をつなぐ視点
2025年の取扱説明書・マニュアル制作業界で見えてきたAI活用の本質は、作業効率化そのものではありません。
校正・翻訳・品質確認を一つの流れとして捉え、プロセス全体をどう設計するかにあります。
基準を整え、AIで検出や一次処理を行い、人が判断する。その結果を次の改訂や翻訳に活かす。
こうした循環を作れるかどうかが、今後のマニュアル制作の質と生産性を左右していくでしょう。
まとめ
2025年、取扱説明書・マニュアル制作業界では、AI活用の位置づけが大きく変わりました。
校正・翻訳・品質確認といった工程にAIが入り始めたことで、制作の進め方そのものを見直す段階に入っています。
特に翻訳では、AIによる一次翻訳が現実的になった一方で、用語統制や警告文の扱い、UI表記との整合など、品質を守るための工程設計の重要性がより強く意識されるようになりました。
校正で基準を揃え、翻訳を工程に組み込み、品質確認を「最後の確認」ではなく「工程で守る」仕組みに寄せていく。こうした設計ができるほど、AI活用は“便利な道具”から“制作の競争力”へ変わっていきます。
重要なのは、AIツールを増やすことではなく、工程全体をどう設計するかです。
AIと人の役割を整理し、品質と効率を両立させるプロセスを作れるかどうかが、これからのマニュアル制作における大きな分かれ目になっていくはずです。
クイックスでは、最新トレンドを踏まえたマニュアル制作業務の代行から、制作運用の最適化、i-Shareによる文書管理まで、トータルでサポートしています。
AI活用を含めた制作工程の見直しや、マニュアル制作・運用に課題を感じた際は、ぜひお気軽にご相談ください。